クレジットカードでの買い物情報を自動的に共有するBlippyが2011年5月、シリーズAラウンドで1120万ドルを調達した1年後、その幕を降ろしました。クレジットカード情報を登録し、ユーザーコミュニティーの中でその買い物情報を共有するという、2009年の設立当時賛否両論の非常に過激なコンセプトで一気にメディアの注目を浴びました。
・クレジットカードでの買い物(店・品物・値段)を友だちと共有するサービスBlippy–ヤバそうだが重要な側面も
・ショッピングサイトが続々Blippyと契約, 先輩Facebook Beaconはなぜ失敗したのか?
・BlippyがFacebookふうにデザインを一新しプライバシー保護機能を導入–ついにトップギア走行だ
・Blippyに投資した投資家がBlippyでその金額を共有–第二ラウンドは$11Mを超える巨額
・買い物情報共有サイトBlippyはAPIを公開して強敵Swipelyに対抗
(上記記事以外にも検索すれば山ほどBlippy関連記事は引っ掛かります。)
"クレジットカードの購買情報の公開及び共有"というコンセプトが失敗に終わった後、なぜこのモデルが失敗したかを語るのは後出しジャンケン感が強く語気を荒げることはできませんが、
【新しい価値を生み出す可能性と消費者への便益 - 表面化されたリスク(的なもの)】がこの時代の消費者にとって負の値だった
という一点に尽きると思います。
今のソーシャルメディアの時代、「○○を××で買いました(いいだろ、これ!)」「□□を△△円で買いました(私って買い物上手でしょ?)」というコンテクストを裏に込めて文字化する傾向は少なくなく、「自分が何を買ったか」という情報を共有するプラットフォームへの需要は低くはありません。「インターネット上の情報をより見つけやすい方法を見出す(ex. Google、Yahoo!)」「複数デバイス間でより簡単にデータをやり取りする(ex. Dropbox、Evernote)」といった人々が常日頃抱えている具体的な問題を解決するわけでは無いですが、「友達や共通の趣味を持つ人とつながりたい(ex. SNS)」「余暇時間に楽しめるものが欲しい(ex. モバイルゲーム)」「皆がどこにいるのか知りたい・皆にどこにいるのか自慢したい(ex. ロケーション系サービス)」など新しい価値観・欲求の存在を人々に訴えて市民権を勝ち得てきた現在のインターネットサービス同様、「買い物の情報を共有したい」「誰が何を買ったか知りたい」という、根本的な欲求としての問題解決では無いにしろ、いわば"問い無き解答"として、21世紀における情報のあり方の1つとしての"買い物情報の共有"がマーケットの流れだというコンセプトの元、Blippyは製品開発・パートナーシップ連携を進めて行きました。
購買データの共有とリスク
僕自身、買い物情報を友人とシェアするというモデルはイイ!と思っています。ほぼ誰しも「自分の友達何買ったんだろ...」と思ったことはあるはずで、周りに流されやすい自分はその傾向が強いように思います笑 しかしながら、Blippyが追求している"Passive Sharing"(受動的な共有:買い物をしたという行為を自動的に共有する)は、Twitterで自分の独り言を全て自動的にツイートするように設定したりFoursquareで自分の位置情報を自動的にタイムライン上に流したりする人がほとんどいないように、現在のソーシャルメディアの使い方としての"Active Sharing"(能動的な共有)の流れに反しているというのが根本的かと思います。自身の全ての購買情報を共有したい人は世の中にほぼいないと言って良いぐらい稀だと思いますが、「このアイテムは買って良かった!皆に自慢したい!」「この商品の良さは是非友達に知らせてあげたい!」という気持ちを表現するのに、【クレジットカードの登録→共有したい商品以外の購買情報の削除→共有したい商品のレビュー執筆】というプロセスでは、リアルタイムの"感動"をユーザーは入力してくれません。また加えて言うと、"Passive Sharing"をユーザー間のインタラクションの上で文字通り"受動的"と捉えるならば、『友人知人に「これどう思う?」と質問されたから自身の購買情報や経験談を共有する』というプロセスがPassive Sharingであって、Blippyのモデルは"Auto Sharing"であり、その流れで言えば、Active SharingもPassive SharingもOK、現時点で芳しくなかったのはAuto Sharingということになります。
加えて、【クレジットカード情報を登録して共有する】という方法があまりにも急進的で、"クレジットカード情報の漏洩"というリスクの存在を感じさせ過ぎる所が、一般消費者に受け入れられなかった点だと考えられます。Facebook Beaconとは異なりオプトイン(ユーザーが明示的に情報の共有を承諾すること)でクレジットカード情報を共有を行っていたにしろ、当時のWebサイトにも"Blippy lets you communicate about and share purchases with friends by syncing already existing e-commerce accounts to Blippy such as iTunes, Netflix, Woot, eBay and more"と書かれていたように、クレジットカードだけではなく既存ECサイトのアカウントの登録も可能だったのですが、急進的すぎるコンセプトに食い付いたメディアが"クレジットカード情報の共有の善悪論"について議論し始めたので、【Blippy=全てのクレジットカード情報の共有=ちょっとリスク高いよね】というバイアスがかかってしまったことにキャズムを超えられなかった一因があるように思います。Amazonで本や電化製品、iTunesで楽曲やアプリケーションを買う時や、mintで財務管理する時のクレジットカード入力は皆抵抗無く行っているにも関わらず、Blippyだと腰が引けるというのは、セキュリティーレベルをいかに高めようとオプトインで必要項目のみ共有可能な仕組みであろうと、入口でかかってしまった「クレジットカードの購買情報の共有」というバイアスを取り払うのは中々難しいということを示していると考えられます。

これからどうするのか?
優秀な人材・堅実なパートナーシップ戦略を有していたBlippyですが、ユーザー数の伸びを担保にしたビジネスモデル構築が上記の理由で上手く行かず、一旦サービスを閉じました。「買い物情報を共有する」というコンセプト自体はこれから時間をかけて受け入れられるものになると思うので、ひょっとすると2015年にこのモデルを実行すれば成功していたかもしれませんが、ビジネスのタイミングに関してはいつが最適(だった)か、ということはこのBlippyを糧にした「買い物情報共有サービス」の成功事例が生まれない限り答えることはできません。現在Blippyは、AmazonやiTunes、Groupon、Safeway、Targetなどのアカウントをリンクさせて購買情報を引き出してレビューする(以前よりは大人しい)サービスへと若干路線変更をして再度公開されました。Gmailとリンクして受信箱からショッピングサイトのレシートを検索して購入情報を選択・共有できる機能は便利ですし、本来のパートナーシップを結んでいるECサービスのアカウントと連携してそのサービス上の購買情報をトラックするというプロセスは非常に合理的です。これからのBlippyも、一応クレジットカード登録機能は残して、引き続き"人間の購買行動の可視化"の手助けを行っていくようです。自分もこのフィールドは非常に興味を持ってリサーチしており、様々なスタートアップが異なるアプローチで市場を狙う分野なので、引き続き自分なりに分析して行きたいと思います。
